【前編はこちら】
年が明け、「甲賀米一升運動」の実施期間が近づくにつれ、「果たしてフードバンク関西様に喜んでいただけるだけの量のお米が集まるのだろうか?」という不安が募ってきました。
収集したお米は、フードバンク関西様が引き取りに来てくださる手筈になっていました。遠路はるばる兵庫県芦屋市からお越しいただく労に報いるためには、小型トラックか大型バンが一杯になるくらいの量はぜひとも欲しいところです。
しかしよく考えてみると、もし仮に甲賀組のご住職100名全員(*甲賀組所属寺院数は133ヶ寺ですが、兼務寺院が33ヶ寺あるためご住職の総数は100名です)から1升ずつご喜捨いただけたとしても総計150kg、軽乗用車に積める程度の量にしかなりません。お米以外に、お茶・海苔・調味料・野菜等の食品のご喜捨もお願いしたのですが、「それらを合わせても軽トラック一杯にも届かないのではないか」との悲観論に陥りそうになりました。
しかし、そこで思い切って「そうなったらそうなったで仕方がないではないか。その時は自分の車で芦屋までドライブがてら運べばいいだけのことではないか」と発想を転換(開き直り?)すると気持ちが楽になり、「あとはとにかく自分の出来ることを精一杯やろう!」と腹が据わりました。
そして1月10日、いよいよ実施期間に入ると、まず一番に、私が住職を務める浄福寺と西蓮寺の檀家様にご協力を要請しました。十夜法要に用いる仏供米袋をお配りし、お米のご喜捨をお願いしたところ、大多数の檀家様が快くご協力くださいました。今回の企画の言い出しっぺの住職の顔を立ててくださった檀家様の温かいご好意にただひたすら感謝するばかりでした。
14日には、甲賀組法式研修会に出席し、終了後に時間を頂戴し、緊張に震えながら米一升運動をPRさせていただきました。すると思いがけず何人かの諸師から「なかなかいい試みだ!」「喜んで協力させてもらうよ!」「どしどしやって!」と激励のお言葉を掛けていただき、大いに感激すると同時に、「ひょっとしたら芦屋までのドライブを免れることができるかもしれない」という微かな手応えを感じることができました。
22日には、甲賀組浄青の新年会に出席し、役員諸師並びに会員諸師に再度ご協力をお願いしました。山添会長も、「実施期間が終わるまでにもう一度近隣寺院に声掛けをし、より多くのお米の収集を目指そう!」と発破を掛けてくださいました。
そうこうしている内に、実施期間が瞬く間に過ぎ去り、25日の最終日を迎えました。その日の夜、甲賀組浄青の役員会が開かれたので、多大なご協力を賜った役員諸師に一言お礼を申し上げるべく会所のお寺に赴きました。玄関を開けるとそこには…まさかのビックサプライズが待っていました。何と玄関ホールが、目算で軽トラ一杯以上のお米と食品で溢れ返っているではありませんか! 今回お米の収集にあたってくださった甲賀組浄青7ブロックの各会長(甲賀組浄青幹事)様が、この日までに集まった分を持参してくださっていたのです。
予定では31日の朝に私の自坊浄福寺に集積することになっていたので、予想だにしなかった展開に驚くと同時に、短期間の内にこれだけのお米および食品を集めてくださった幹事様のご尽力とそれに応えてくださった甲賀組諸大徳のご厚情に胸が熱くなり、思わず低頭合掌せずにはいられませんでした。やはり自分の車にはすべてのお米と食品を積み切れず、この時点で芦屋行きドライブ中止が決定し、ホッと安堵のため息をつきました。積み残した分は幹事様に拙寺まで運んでいただきました。
翌26日から31日までの一週間の間にも、毎日お米と食品が続々と拙寺まで届き、拙寺の一角はさながらお米屋さんのようになりました。望外の喜びに浸りながら、感涙と汗を拭い拭い、「頂戴したお米を一粒たりとも無駄にしまい」という気持ちで慎重に精米作業(玄米で頂いた分)と袋詰め作業に勤しみました。
最終的にお米の総量は460kgに達しました。一ヶ寺平均2升以上、ご住職お一人平均3升以上のご喜捨をいただいた計算になります。またお米以外の食品も100kg強集まりました。
甲賀組諸大徳にこれ程の絶大なご協力をいただけたのは、依頼状の中の、「元祖法然上人八百年大遠忌を迎えるにあたり、この事業を「甲賀米一升運動」と銘打って推進し、法然上人のお念仏のみ教えの根底にある万機普益・平等救済といった慈しみの精神を社会に具現化し、祖師の恩徳に報いたい……」という「ひとさじの会」の理念と情熱を盛り込んだ一節にご共感いただいたからに違いないと確信しました。広大な利他の御心と法然上人に対する深い報恩感謝の真心をもって、「ひとさじの会」の思いに形を与えてくださった諸大徳に対し、改めて深い感謝と尊敬の念を抱き、自分が甲賀組に所属していることを心から誇りに思いました。
お預かりした貴重な浄米と食品の内、ひとさじの会にお米100kgをお分けいただき、後はすべてフードバンク関西様にお渡しすることに決めました。
31日朝、フードバンク関西の藤田治理事長が遠路を厭わず拙寺まで大型バンを駆ってお越しくださり、ご一緒に積み込み作業をさせていただきました。何とかバンがほぼ一杯になり、藤田様も喜んでくださっているご様子で、安堵の胸を撫で下ろしました。
そして、同日、滋賀教区教務所での「余剰品融通活動」(お寺で使い切れない洗剤・石鹸・タオル等のお供えと残蝋を集めて県内の福祉施設やNPOへ寄贈する滋賀浄青の活動。第2回目の今年も上々の成果を収めました)の仕分け作業と、甲賀組第一部浄青OB・現役会員合同新年懇親会に出席した折に、早速結果をご報告させていただいたところ、「おおっ!よく集まったなあ!」と皆様一様に感嘆の声を上げられました。このお声を聞いて、今回の試みは成功だったという確信を得ることができました。
また、原会長・吉水事務局長にご報告したところ、歓喜と興奮に満ちたお声で「それは凄い!今回の「甲賀米一升運動」は、まさに「ひとさじの会」の推進する寺院による施米支援の先駆的モデルケースとなりました。これもひとえに曽田さんをはじめ甲賀組諸大徳のおかげです。本当にありがとうございました!」とお礼を仰ってくださり、ただただ恐縮するばかりでありました。
こうして、第一回「甲賀米一升運動」は、多くの方々のご支援とご協力のお陰で、初回としては上場の成果を収め、幕を閉じたのですが、その後間もなく、思いがけない嬉しい反響が次々と寄せられました。
一つには、地元滋賀浄青の今期(平成22年度・23年度)の新規事業として、「米一升運動」を滋賀教区全域に拡げることが決定しました。「米一升運動」を構想した当初からの念願が叶い感無量でありました。この新事業を担う滋賀浄青慈善活動委員会の委員長を不肖私が拝命することとなり、今から緊張と期待に身を震わせております。
二つには、他教区の浄青の方々に注目していただき、すでに東北ブロック浄青では「米一升運動」を事業化していただけることが決定しております。これからじわじわと拡がっていけばと思っていた「米一升運動」がこれほど迅速に、しかも近畿を飛び越して東北まで伝播するとは全く想像だにしておらず、東海林良昌理事長のご慧眼とご英断に深甚の敬意と謝意を表すものであります。
三つには、浄土宗内外の多くの新聞・雑誌に「米一升運動」を取り上げていただくことができました。私の要領を得ない受け答えを上手く記事にまとめていただいた記者様方のご力量に感服しました。
このような思いもよらない高い評価をいただき驚くと同時に感謝の気持ちで一杯になり、「米一升運動を諦めずにやり遂げて本当によかった!」としみじみ実感した次第です。
今回、初めて「米一升運動」に取り組んでみて最も強く感じたことは、口幅ったい物言いで恐縮ですが、「これぞ真にお寺が行うに相応しい福祉実践ではないか」ということです。仏供米の一粒一粒には、阿弥陀如来の慈悲の御光、檀家様の阿弥陀様・ご先祖様に対する供養の真心がぎっしりとこもっています。「米一升運動」によってその尊い慈悲・真心を広く伝え分かち合うことは、阿弥陀様や檀家様の御心に適うことであり、寺院の活動として意義あることではないでしょうか。
今後も、この貴重な仏供米、そして、この仏供米を「ひとさじの会」のメンバーが「すべての有縁の方々に、共に極楽浄土に往生しそこで再会する友として、僅かでも慈しみの心を伝えていきたい」という思いを込めて握って出来るおにぎりが、今生活に困っている方々の空腹を満たすだけでなく、心を潤し、生きる希望を呼び起こすのだと信じて、「米一升運動」の普及拡大に微力ながら力を尽くす所存です。
以上、「甲賀米一升運動」実施の経過と結果をご報告申し上げます。法務多忙に加え、生来の筆不精ゆえ、ご報告が大幅に遅れましたことを関係諸師に深くお詫び申し上げます。 合掌